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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)816号 決定

申請人

古文鑑

外三名

被申請人

東京中華日報社

主文

申請人四名が共同で被申請人のため保証として金壱万円を供託することを条件として、被申請人四名に対し昭和二十四年三月三十一日になした懲戒解雇の意思表示はその効力を停止する。

理由

本件疎明資料を綜合すれば、

被申請人は中華日報社と称する日刊新聞を個人で経営するもの、又申請人古文鑑は同社の総務局長、同渡辺清茂はその庶務部長同粛錦昌は同社の従業員で組織する労働組合全新聞労組中華日報支部の委員長、同江副敏生は同支部の書記長であるが、昭和二十三年末頃より右中華日報支部は被申請人に対し賃金値上げを要求し、団体交渉を重ねた末、昭和二十四年二月八日東京都地方労働委員会の斡旋によつて(一)被申請人は先に提案した再建計画案を一応撤回し、再検討の上早急に新計画案を組合に提示する、(二)給与に付ては暫定措置として一律に税込三割の増給を認める、(三)団体協約並に就業規則に付ては早急に被申請人及び組合に於て立案協議に入る。等の内容の仮協定が成立した。

然るに被申請人に之を無視し、僅か数日後秘かに新聞用紙割当受給権を巨額の金額で報知新聞社に譲渡する契約を結び従業員全員の解雇を前提とする廃業をなそうとしたので、之を知つた組合及びこれ迄被申請人側について組合との団体交渉に当つていた申請人古文鑑及び同渡辺清茂も之に反対し、遂に同年二月二十三日組合は争議に入り申請人古文鑑及び同渡辺清茂も之に加わつたところ、被申請人は之に対抗し、右廃業目的を貫徹すべく、同年三月五日休刊宣言を発し爾来相対したまま今日に至つたが、この争議中申請人四名は争議団体の指導者として、被申請人に対し経理上よりみても中華日報社の経営が可能である旨を強調し、用紙割当受給権譲渡が前記仮協定に反する背信行為であるとしてその罪を責め、右協定に沿つて速やかに中華日報社再建案に付団体交渉を開始すべきことを要求し、或は在京華僑に呼掛けて用紙受給権譲渡反対の与論を喚起し、更に種々調査を遂げた末被申請人に用紙の闇流し、その他詐欺、恐喝、横領等の犯罪の嫌疑があるものと信じ、所謂暴落戦術として同二十四年二月末、C・I・Dに告発する等種々の対抗手段を用いて受給権譲渡を阻止し廃業に反対したため遂に被申請人の前記報知新聞社への用紙割当受給権譲渡もその影響を受けて行詰まりの状態のまま今日に至つたが、斯かる結果を生じたことは右の如き申請人等の活動によるものとして被申請人を痛く刺戟する結果となり、遂に被申請人は申請人四名を解雇し、之により争議団体の指導者四名を追放して組合側を切崩し、以つて争議を自己の有利に解決しようとして同年三月三十一日東京都地方労働委員会の同意を得ることなく申請人四名の右告発を以つて誣告であり且中華日報社職員服務規定第四条「本社職員は常に文化人としての使命を自覚し軽挙妄動又は社の名誉を毀損し若は破壊するが如き言動を為さざること、従つて社の不利となるべき行動又は行為あるべからず」第十一条「第二条乃至第六条に違反した該当者は退職懲戒処分又は休職処分に付するものとす」との条項に該当するものとし之を理由として申請人四名を懲戒解雇した事実が一応認められる。然しながら労働者が争議行為をなしたことを理由として使用者が之を解雇するには労働委任会の同意を要することは労働関係調整法第四十条の明定するところであり、同条の法意はこの場合解雇の当否従つてその前提たる争議行為の当否の判断は挙げて労働委員会に一任したものと解するを相当とするから、いやしくも争議手段と認められる行為を理由として労働者を解雇する場合には、たといその争議行為の不当なることが一見明瞭なるが如く見える場合に於ても、なお例外なく労働委員会の同意を要するものと解するを妥当とする。なんとすれば斯かる場合労働委員会はその同意を拒否することはないであろうから、一切の例外を設けず、一率に労働委員会にその当否の判断を委ね、以つて紛糾の余地ならしめるの劃一的なるに如かないからである。

今本件に付て之をみるに、被申請人は申請人等の前記告発を誣告として前示解雇の理由となすものであるが、いやしくも、右告発が争議の一手段としてなされたものであること前記認定の如くなる以上、誣告の成否に拘らず、申請人等を解雇するには労働委員会の同意を要するものといわなければならない。

仮に告発の如き行為は争議手段とは認め得ないとの観点に立つも、本件の場合にあつては被申請人の犯罪の成否は暫く措き申請人四名は被申請人に前記犯罪の嫌疑ありと信じて右告発の挙に出たもので、不実の事実と知りつつ虚偽の申告をしたものとは認め難いこと前記認定の如くであるから、誣告も亦成立しないものと一応認めざるを得ない。しかのみならず、前記疎明事実よりすれば表面上は右誣告が懲戒解雇の理由として挙げられてはいるが、寧ろ申請人四名が本件争議団体の指導者として争議を指導し、前記各種の争議行為をなしたことが本件懲戒解雇をなすに至つた主要な理由であることを窺知するに難くないから、以上何れの点よりするも東京都地方労働委員会の同意なくしてなさされた本件解雇は無効と言わねばならない。

而して解雇が無効であるにも拘らず、従業員が被解雇者として取扱われることは現在の社会状勢下に於ては従業員個人の経済上の死活の問題であり、被解雇者としての取扱を受けたものに著しい損害を与えることは顕者な事実であるから前記解雇が無効なりや否やの本案の確定判決がある迄一応右解雇の意思表示の効力を停止し、申請人等を従前の地位に復せしめる必要があると共に、更に申請人等をして中華日報社の従業員たるの地位に於て被申請人との間に自主的に適当な解決をなさしめることが相当であると認め主文のような仮の地位を定める仮処分をしたわけである。

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